ラブコメからホラーまでが1冊に。おすすめマンガ短編集『空が灰色だから(1)』阿部共実
第6話『今日も私はこうしていつもつまらなさそうな顔してるあいつとつまらない話をして日を過ごしていくのだ』
第7話『ひとりぐらし』
第9話『夏がはじまる』
第8話『星畑玉姫高校2年生17歳 花村奈々美高校2年生17歳 鬼ヶ原樹里子高校2年生16歳物語』
「頭寒足暖」が心地よい
年末も年末。あと1日と数時間で除夜の鐘があたりに響き渡るころ。ひたすらに寒い日が続き、体温でこたつのように暖まった布団はもはや蟻地獄である。あまり空調の類は使いたくないが、もうさすがに何も使わずに過ごすのはツラいもの。
僕の部屋には現代の若者らしく冷暖房が完備されているのだが、どうにも暖房は好きになれない。部屋全体が暖かければ、脇にあるベッドに寝転んでも、机で作業をしていても同じように快適である。しかしどうにもちょうどいい温度に保つのが難しく、いつも少し汗ばむほどの室温になってしまう。
過度に暖かくなると、身体は春の陽気に包まれているかのようにぼんやりしてしまう。集中して文章を書きたいと意気込んでいても、「まぁ一行書いたからいいか」なんてのんきなものだ。
偽装された春の陽気から逃れる手段を考えた。僕の解答は机の下に収まる小さなヒーターだ。これが大変な優れものでスイッチをつければ1秒で足元が暖まる。上半身には厚手の半纏。全くスキがない。頭部は多少寒くとも問題はないどころか、冴えない頭がほんの少し冴えたような気さえする。頭寒足暖(僕の造語だ)はいい。
マンガは短編集がおもしろい。阿部共実というマンガ家を知っているだろうか。彼(正確に性別を把握していないので、便宜的に彼と呼ばせていただく)は『ちーちゃんはちょっと足りない』で『このマンガがすごい!2015』オンナ編第1位を獲得している。しかしなんと言っても短編集の出来がとてもよい。
『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』はいかにも危なそうな雰囲気が漂っている。ねこを飼っていない男性の家に猫好きの女性が訪れてイチャつく物語や、何を問うても「え」としか返答しない女子高生の笑える話。春の陽気が漂っているのかと思いきや、友だちのいない高校生を絶望に陥れるひどい吹雪のような話なんかもある。この1冊に四季が詰まっているかのごとく、全く違う景色を見せてくれる。
僕にとってはこの「頭寒足暖」のような変化値、というか落差が大きいものに惹かれるのかもしれない。
今年は豊作であった映画でいうと、『怒り』が特に好きだ。映画館に足を運んだ方なら誰しも、あの沖縄の学生に自分の姿を投影して「なぜあの子を守ってやれなかったんだ」と強い後悔に苛まれたことだろう。直前には高校生らしく心が近づく様子が描かれ落差があったからこそ、印象に残るような作品になる。
誰がやるのかわからないガチャガチャ【勝手にグッドデザイン賞】
唐突ですが、自分の目を養うためにも「勝手にグッドデザイン賞」というコーナーをつくることにしました。意匠デザイン(見た目など)と機能デザインに優れていると僕が感じたモノ・サービスに勝手に授与します。いわば、これすげー!とデザイン面で驚きのあったものを紹介するということです。
勝手にやっているだけなので、1億円で買われるほどの経済効果なんかは全くありませんよ。
栄えある第1回は…こちら!
「定礎-マグネット&置物- ガチャガチャ」
Good
・ニッチすぎて、思わずツッコみたくなる欲が湧く
・ガチャガチャコーナーに注意を集める装置になっている
数ヶ月前に見つけたものなので、どこで出会ったのか記憶が曖昧なのですが、ショッピングモールの片隅にあるガチャガチャコーナーに佇んでいました。
このガチャガチャを見て最初に思うのは、「絶対やる人いないだろ」ということ。だってたとえば自分の彼女が家の冷蔵庫に「定礎 平成18年9月」なんてマグネットを貼っていたら、こいつヤバいやつだって思いませんか。「見て見て、この定礎!イケてる〜!」とかきっと言うんですよ。
通りがかった人は、定礎ガチャガチャをやる人がいなさそうすぎて、ツッコみたくなる欲望にかられます。しかしそれがこのガチャガチャの役割なのです。これ自体にお金を払う人はいなくても、興味を持った人が隣のかわいい猫ガチャガチャにお金を払うということは発生しているはず。
これはいわば全盛期のイブラヒモビッチのポストプレー。どこからどんなボールが来ても優しくトラップして的確な位置にパス。どんな人が通ってもまず定礎ガチャガチャが視線を集めて、隣のわりと普通なかわいいガチャガチャへと誘導する。そんな影の立役者に「勝手にグッドデザイン賞」を授与します。
「きのこの山」「おいしい牛乳」のあんな所まで見られちゃう!『デザインの解剖展』の感想
六本木の東京ミッドタウンにある21_21 DESIGN SIGHTで2016年10月14日から開催されている『デザインの解剖展:身近なものから世界を見る方法』へ行ってきました。
『デザインの解剖展』ってどんな企画展?
私たちは日々、数え切れないほど多くの製品に囲まれて生活しています。大量に生産された品はあたり前の存在として暮らしに溶け込んでいますが、実は素材や味覚、パッケージなど、製品が手に届くまでのあらゆる段階で多様な工夫が凝らされています。それらをつぶさに読み解いていくのが「デザインの解剖」です。(21_21 DESIGN SIGHT - 企画展「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」)
グラフィックデザイナーの佐藤卓さんがディレクターを務め、「きのこの山」「ブルガリアヨーグルト」「スーパーカップ」「おいしい牛乳」といった見慣れた商品たちを、文字通り解剖していきます。
単にパッケージを剥がして中身を見せるという簡単なものではありません。その粒度がとんでもないんです。たとえばきのこの山のブースだけでも、「チョコ業界の歴史」、「名称」、「正面外装グラフィック」、「Webサイトの配色」、「内装の素材」、「形状の検証」、「糖度」といったように40ほどの切り口できのこの山が分析されています。しかもそれぞれについて1000字程度の文章が掲載されているので、全部きちんと読むのには時間がかかります。
でも大丈夫。1分程度で読める要約も用意してくれているので、文章はささっと読んでビジュアルだけでも楽しめます。
『デザインの解剖展』の見どころ
この企画展は、なんといっても一般人にとって馴染み深い商品を解剖しているビジュアルがとても魅力的です。展示は一部を除き写真撮影が可能でしたので、少しお見せします。
『デザインの解剖展』の感想
「Illustrator(イラレ)」のようなグラフィックソフトを使っている人にとっては当たり前のことですが、身の回りにあるパッケージはとても多くの層が重なって構成されています。そのたくさんの層を分解して、ひとつひとつの意味を丁寧に解説してくれているので、一度体験すると商品を見る目の解像度が高くなってきます。
コンビニで買ったお茶のパッケージはどんなフォントで構成されているのか、そもそもお茶の業界はどんな変遷を経てきたのか、いま販売されている季節限定のほうじ茶の成分は緑茶とどう違うのか…。
これらの視点はすぐに何かに役立つわけではありませんが、既知を未知化することであらゆる物事が興味の入り口になります。発想力を豊かにしたい、という人にはぴったりの企画展です。
基本情報
会場: 東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
期間: 2016年10月14日~2017年1月22日
開館時間: 10:00~19:00
休館日: 火曜、12月27日~1月3日
入場料: 一般1,100円 大学生800円 高校生500円 中学生以下無料
公式サイトURL: http://www.2121designsight.jp/
映画『何者』は就活のリアルを描いた作品。経験者はツラいかも
映画『何者』を公開日に観てきた。ネタバレせずに感想を書きます。
事前の情報はほとんどなく、映画館で他の映画を観たときに流たCMだけで物語を想像していた。CMで印象に残っていたのは、就活がテーマであること、佐藤健が演じる主人公はダメ人間っぽいということ、そして有村架純が主人公に対してつぶやく「好きだったよ」という言葉。
あー、就活を通して有村架純が佐藤健に就活を通して恋する物語かなと予想していた。
これは就活時期の青春ラブストーリー...
全くラブストーリーではなかった。
就活を通して見え隠れする、人の側面が詰め込まれに詰め込まれていた。だから就活のリアルな場面がたくさん。ここ数年で就活を経験した人は特に共感するはずだ。
たとえば、「俺はまわりに流されたくないから、就活はしない」という人。グループディスカッションでアピールをしたいがために、会話を遮って自分の話ばかりしてしまう人。自分らしさを失いたくない、と私服で選考を受ける人。志望会社の社員に会ったことなんかをツイートする人。
自分のまわりにもいたなぁ、といい意味で既視感を強く感じた。それだけリアルに(少し過剰だが)就活の現場を描いていたのだ。Twitter や LINEといった普段からよく見ている画面をこれだけふんだんに使った映画は他に観たことがない。
原作を読んでいなかったので知らなかったが、ちゃんと裏切りというか、驚く展開があった。さすが朝井リョウ。まさか佐藤健演じる主人公が...
みんな就活への疑問を抱えながら何者かになろうとする。就活をバカにする人はたくさんいるけれどレールの先にたくさんの道がある。
徹底的にいまの就活の様子を描いた作品だから5年後には風化してしまっているかも。ここ数年で就活を経験した25歳〜30歳ぐらいの人が「あるある」とか「うわー自分のときを思い出してツラい」と共感して見られる作品。