いろどりぷらす

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ささいなことで傷ついてしまうのが現実 ―『ちーちゃんはちょっと足りない』阿部共実

 

ちーちゃんはちょっと足りない』は2014年度の第18回文化庁メディア芸術祭、マンガ部門の優秀賞を受賞した作品。 さらに、先日発表された「このマンガがすごい!2015」オンナ編で1位を受賞しました。おめでとうございます!

 

読んでみて、複数の賞に選ばれるだけのことはあるなと思いました。

 

 

あらすじ


成績、お金、恋人、友達……いつも何かが足りない気がする中2女子のちーちゃんとナツ。二人はクラスの中で成績優秀な友達・旭や、学級委員に助けられながらも、フツウの日々を送っている。そんなある日、ナツとちーちゃんは学校帰りに寄ったお店で、クラスの目立つグループの女子から「万引きしねえ?」と声をかけられ―。平凡な中学生活は、ふとしたことで揺らぎ始める。(http://j-mediaarts.jp/awards/new_face_award?section_id=4&locale=ja)

 

 

 

この表紙の女の子がちーちゃんだ。決して頭がいいとは言えず、小学生レベルの問題をやっと解けるぐらい。しかし、その持ち前の明るさで周りの生徒から可愛がられている。


そんなちーちゃんと仲がいいナツはなんとなくいつも自分と友だちを比較してしまう。


「あの人は頭がよくていいな」

「あの人は恋人がいていいな」

「みんなすごいな」


「…それに比べて私には何もない」


自分に自信がないから必要以上に他人の目を気にしてしまう。そんなナツを見ていると中学生の頃の自分を思い出す。


僕が通っていた中学校は、ほぼ2つの小学校の卒業生で構成されていた。つまり半分くらいの生徒はもともと顔見知りということだ。はじめのうちは同じ小学校だった友だちばかりと遊んでいるのだが、少しずつ打ち解けて違う小学校の子とも仲良くなってくる。


学年が上がるごとにクラスが変わっていき、中学3年生のクラスで初対面の状態からとても仲良くなった友だちがいた。彼はサッカー部で運動ができるし、勉強もできる。その上、意味の分からないギャグで周りを笑わせられるセンスも持っている。人気者にならないわけがない。


すごく楽しかったから、いつも一緒にいた。遊びも、勉強も、食事も。


ある日、普段と同じように声をかけた。なんと言ったかは覚えていない。大した内容ではなかったのだ。


あのさ・・・

 

返事を待っても、顔はこちらを向かない。


あれ、聞こえなかったのかな。でもそんなに小さな声じゃなかったし…ということは無視されたんだ。なんでだろう、なにか気分を害するようなことしちゃったかな。たぶんしてないと思うんだけど、また無視されるの怖いからもう話しかけられないや…。


結局そのまままともに話すことなく卒業してしまった。だから今となっては彼がどう思っていたかはわからない。きっとそんなに嫌っていたわけではないのだと思う。


似たようなことを経験している人は多いだろう。大学にくると1人の友だちにリアクションしてもらえなかった、というだけで悩むほどショックを受けることはほとんどない。しかし、高校までは周りの人のささいなしぐさまで気になってしまう。毎日朝から夕方まで同じ人たちと顔を合わせるからクラスにいる周りの人がすべてだという思い込みができてしまうのだ。たとえば、さっき話してたときあいつなんとなく嫌そうな顔してたな、だとか、プリント回してくれたときあの子少し雑だったなというように。


現実ではささいなことで傷ついてしまうが、物語で現実に則した日常を描くと、どうしてもつまらなくなってしまう。だからたいてい学校生活を描く物語にはたくさんの事件が起きる。しかし、本作では大きな事件は起きない。なのに決してつまらなくない。それがこの作品が素晴らしい理由だ。

 

 

 

 

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