『ワカコ酒』に出てくる料理はなぜおいしそうなのか
グルメマンガを読んでいて、「おいしそう」だと思うこと多くないですか? 僕は作品で紹介されていた商品を購入したり、お店に足を運んだりします。この、読者を消費に駆り立てる力を持っている「おいしさ」の描き方に、興味があります。それに加えて、グルメブログを書いている方にも役立つかもしれないと思い、「グルメマンガの料理はなぜおいしそうなのか」という主旨の記事を書いていこうと思います。
第1弾として取り上げるのは、新久千映さんの『ワカコ酒』というマンガです。
概要
村崎ワカコ26歳。酒呑みの舌を持って生まれたがゆえに今宵も居場所を求めてさすらう女ひとり酒。貴女の隣に居るかもしれない、大人気・おひとり様仕様の呑兵衛ショート♪(ゼノン編集部|ゼノン・ぜにょん・タタンが1つになったWEBマンガサイト)
『ワカコ酒』は共感でおいしさを表現する
グルメマンガはいろんな角度から料理を取り上げます。特殊な例で言うと、『目玉焼きの黄身いつつぶす?』というマンガは料理そのものではなく、食べ方に注目していたりします。『ワカコ酒』はあくまで料理を食べる立場から、「こういう料理、酒っておいしいよね」という形で読者の共感を呼ぶ描き方をしています。
タイトルと表紙で読者を限定している
マンガを手に取るときに、最初に目に入るのはタイトルと表紙。これはブログなんかも一緒ですね。『ワカコ酒』というタイトルと共に表紙に描かれているのは「ハイボール」とプリントされたグラスを持って恍惚としている主人公の姿や、餃子を片手に「BEER」と書かれたジョッキを口に運んでいる様子。このタイトルと表紙の絵によって、読者層を限定しています。中学生が「酒」が中心になっていそうなマンガを購入する可能性は少ないでしょう。だいたい読者として想定できるのは20〜40ぐらいの男性。女性がどれぐらい魅力を感じるのかは、わかりません。
読者層を限定した上で、目次のページに目をやるとそこに並んでいるのはどれも居酒屋のメニューとしてどこかで見たことがあるものばかり。
・鮭の塩焼き
・焼き鳥
・だし巻きたまご
・焼き餃子
・朴葉味噌焼き
・炙り〆さば
・ざる豆腐
・あん肝ポン酢
・ポテトサラダ
・サザエのつぼ焼き...他
居酒屋行ったことがある人の中で、「どれも見たことがない」なんていう人はいないでしょう。むしろ、食べたことがあるものばかりだと思います。だから、誰も食べたことがなくて全く味が想像できない特殊な料理を紹介する場合と違って、「炙り〆さば」という料理名とある程度きちんとした絵さえあれば、読者は過去の体験を思い起こしながら「あー、炙り〆さばはおいしいよね」と感じられるのです。
この作品で特殊なのは「おいしい」とか「うまい」という言葉を全く使わないところ。読者の体験を呼び起こすことで、わざわざ「おいしい」と言わなくても「おいしいよね」と感じさせることができるのでしょう。
「仕事帰りの一杯はうまい!」を描いている
食事のとき感じるおいしさは、料理を口の中に運んで咀嚼し、舌で味を感じているときだけでは描けません。「仕事帰りの一杯はうまい!!」なんてよく言うじゃないですか。満腹のときにはいくらおいしい料理が出されてもきっと苦痛でしかなくて、逆に空腹であればうまい棒さえごちそうになったりします。『ワカコ酒』はこうした料理を口にするまでの流れにきちんと触れています。
こんなのもはや、食べてないけど「おいしい」じゃないですか。すべてのエピソードにこうした前置きがあるわけではありませんが、「仕事で疲れた」とか、「運動して汗を流した」といった店に入る前の文脈を描くことで、料理のおいしさを演出しています。
常識と自分なりのこだわり
グルメマンガを描いているということは、作者はそれだけ「食」にこだわりを持っていることが多い。「おいしければなんでもいいや」なんて人はいない。本作は「常識的にはこうだけど、私はこれがおいしいと思う」みたいな描き方がうまい。
居酒屋で、メニューにはないかきあげを注文したときのエピソード。
天ぷらといえば、一般的には天つゆと日本酒があうという世間の見解を示しつつ、「でも私は塩をつけてビールを飲みたい」と作者のこだわりを表している。このこだわりは、何も日本中に他に同じこだわりを持つ人はいないという類のものではなく、「素材の味を活かすために塩で天ぷらを食べる」というような人はわりとたくさんいると思います。
仮に、ものすごく特殊なこだわりが描かれていて「私は料理のことを熟知しています」というアピールだったしたら、読者は「お、おぅ」と引いてしまったり、「へー、そうなんだ。今度やってみようかな」と知識を得るだけになってしまう。『ワカコ酒』においては、多くの人が「そうそう、これがうまいんだよ」と共感できるこだわりが描かれているため、読者はマンガの主人公と一緒においしさを感じられる上に、「ちょっと食に詳しいです 感」に浸れる。
まとめ
・『ワカコ酒』は共感によっておいしさを表現している。
・タイトルと表紙で読者層を限定することで、共感を呼びやすくしている
・料理を口にするまでの文脈をきちんと描いている
・常識と自分のこだわりで「そうそう、これがうまいんだよ」という共感を呼んでいる
このような感じでしょうか。近いうちに違うグルメマンガでも同じことをやりたいと思います。
公式のいろいろ
最新話が読めます。
ちょうど今(2015-02-04)、ドラマ化しているようです。
webコミックぜにょん、「ワカコ酒」更新されました。カキフライです。カキの、フライです。http://t.co/JZfDKkkH0Q pic.twitter.com/9GuvpJ0H2q
— 新久千映 (@chiezoooou) 2015, 1月 18
『ワカコ酒』が気になるのなら、こちらはいかがでしょう。
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