演じることを求められる子どもたちー『夢から覚めたあの子とは きっと上手く喋れない』宮崎夏次系
本のいいとこおすそわけ。今回ご紹介するマンガは宮崎夏次系さんの『夢から覚めたあの子とは きっと上手く喋れない』です。なかなか感想の書きづらい作品でした。しかし、それは本作が駄作であることを表しません。僕は好きです。
概要
初作品集『変身のニュース』/第二作品集『僕は問題ありません』(各全1巻)、両作品とも「俺マン」トップ10入り&「このマンガがすごい!」にランクイン!! 業界最注目の新鋭が、あらゆる種類の「さみしさ」を描いた最新短編集。
好きなものは世の中にいっこでいい。大切なものに代えがあるのは、さみしいから。第1話「明日も触らないね」よりこれまでにないマンガ表現を模索する絵柄や描写で、評論家や目利きの書店員から2010年代を牽引する逸材として注目を集める宮崎夏次系の最新作。今作では、人間のあらゆる種類の「さみしさ」を描いた短編九本が収録されている。(Amazon.co.jp: 夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない)
世の中には2種類の作品しかない
世の中には2種類の作品しかない。それはわかりやすい作品と、わかりづらい作品の2つだ。と、かっこいい風に言ってみたものの、あたりまえのことですね。わかりやすい作品は、誰もが共感できるテーマを扱い、セリフ、表情、コマ割りで読者が求めているカタルシスへと導いてくれる。
一方で、単なる駄作を除いたわかりづらい作品はというと、みんなが共感できるわけではないテーマを扱い、なおかつメッセージもあるかどうかわからないように描く。だから読者は必死で作者の意図を読み取ろうとする。もちろん作者としては「こういう作品にしたい」と考えて描いているかもしれませんが、読者の解釈に正解はありません。だいたいの場合わからない。だけど、僕はそういうマンガが好きです。
自分の言葉は他人の言葉
「自分が発している言葉はだいたいは他人の言葉だ」というような話があります。誰だって、どこかで聞いた意見、どこかで読んだ言葉を知らず知らずのうちに自分の言葉として使っている。このブログだってそう。もはやどこで得た言葉なのかわからないけれど、どこかで見たことがあるからこそなんとなく言葉にできる。一方で、他に扱っている作品が少ないテーマ、あまり語られていないテーマに関しては、読者は語れる言葉がありません。
読んでいて、何を言っているのか言葉にできないけれど、何かを受けてとって共感できるマンガ。感想が言えないのは、描かれているものが不透明だからとか、扱っている内容に共感できないからといったことではなく、他の作品で扱っていないテーマを描いているせい。『夢から覚めたあの子とは きっと上手く喋れない』はそういった類の作品です。
表題作は、家族の中で役割を演じることを求められるつらさを描く
この単行本は短篇集で、どの作品も読んで感想が言いづらいものばかり。表題作の主人公は、不登校になってしまった小学校低学年くらいの少女。親からは不登校であることを責められ、学校に行くように強く求められている。隣の家に住むのは、精神を患ってしまって子どもが重病患者であると信じ込んでいる母親と、病気のふりをしている少年。
ある夜に窓の外を見ると、隣の家の屋根の上に少年が裸で立っていた。そこで重病であると思っていた少年が、実は病気の演技をしているだけなのだと少女は知る。自分は家族に求められていることをせずに不登校になっている一方で、隣の家の少年は親に求められている役割をきちんと把握して、病気を演じている。そんな健気な姿を見て主人公の少女は「自分も頑張ろう」と決意する。
唯一ありのままでいられるはずの家族の団欒の中で、求められている役割を演じると決めた少女は、少年と同調する。夢から覚めないあの子とは 絶対上手く喋れる。似たような境遇に陥り、つらさを感じている少女は少年に心の中でエールを送る。
「隣人よ 耐えろ 私達は 生まれる場所を選べない」
何も隠さずにいられる関係であるはずの家族に、演じることを求められる子どもたち。表題作はありのままでいられる場所のない子どものつらさがテーマ。単行本内の他の作品は、扱っているテーマは違いますが、こうした心の機微を描いています。絵を含めて好き嫌いがありそうですが、僕は好きです。
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夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない / 宮崎 夏次系 - モーニング公式サイト
夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない (モーニング KC)
- 作者: 宮崎夏次系
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/05/23
- メディア: コミック
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