いろどりぷらす

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人間と馬人の雇用格差など、相変わらずプロットがおもしろいー『竜の学校は山の上』九井諒子

 

本のいいとこおすそわけ。

今回ご紹介する作品は九井諒子さんの『竜の学校は山の上』というマンガの短篇集です。九井諒子さんは、いま人気の『ダンジョン飯』や文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を獲得した『ひきだしにテラリウム』の作者でもあります。

 

※2015年3月の月替りセール商品の対象として、本作は現在Kindle版が72%オフとなっています。

 

 

相変わらず九井諒子さんの作品はプロットがおもしろい。よくもまあこんなにたくさん短編で映える設定を思いつくものだと関心するばかり。本作に収録されているのは『帰郷』『魔王』『魔王城問題』『支配』『代紺山の嫁探し』『現代神話』『進学天使』『竜の学校は山の上』『くず』の9作品。中には、『ダンジョン飯』を彷彿とさせる作品もありますが、僕が特に気に入ったのは『現代神話』と『進学天使』の2つ。このうち『現代神話』に絞って感想を書こうと思います。

 

人種による雇用格差というテーマと、一般人の日常生活の合わせ技 

 

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『現代神話』の舞台となっている世界では、いわゆる人間である「猿人」と、「馬人」という人間に馬の四肢がくっついた人が共存しています。「猿人」は、現実の世界でよく見かけるように嫌々仕事をしている人がたくさん。大学の授業をさぼったり、公園のベンチでぼーっとしたり、よく見かける光景ですね。一方、馬人は働くのが大好きで、休日であってもつい仕事をしに会社に行ってしまうほど。しかも睡眠時間は3時間で済んでしまいます。

 

働きたがりな上に休みが少なくて済む「馬人」は当然社会人としての需要が高く、馬人需要のせいで「猿人」の雇用が減ってしまっているという。この現状を是正するために、「馬人」の雇用制限をする法案が提出されました。

 

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この対比はいわゆる格差の構造と似ている。「馬人」の中には「好きで仕事をしているのに、労働を制限するなんて日本の成長を妨げるだけだ」と言っている人がいたり、「猿人」は反論して「猿人の雇用を奪うことは馬人にとってもメリットではない」なんて議論を交わしているシーンがあります。

 

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こんなシリアスな話が進む一方で、「猿人」と「馬人」夫婦の、のほほんとしたエピソードが時折、挟み込まれています。「馬人」は体が大きいので、その分カロリー摂取が必要。「馬人」の妻は夫と同じお茶碗でご飯を食べる時、お代わりすることになります。その様子を見た夫が「大きい茶碗にしたら?」と聞くと、「同じがいいの!」だと...。かわいい。

 

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こうしたテイストの異なる2つのパートの組み合わせがとてもうまくいっている。「生得的な身体的特徴による雇用格差」というギスギスしてしまいそうなテーマを扱っている物語の合間に、「かわいい」と思えるようなのほほんとした日常生活のエピソードを挟むことで、全体の雰囲気が柔らかくなっています。

 

この全体の雰囲気づくりのうまさに加えて、人種によって生まれる問題に対して一般人がとる姿勢も「そうそう」と納得できるように描かれています。自分の人種の意見をはっきりと主張する人、相手の人種を理解しようとする人、対立する議論を静観する人。

 

みんながみんな、異なる人種と対立しているわけではないし、誰も相手を理解しようとしてないわけではない。ただ、いわゆるメディアは視聴率のためにより刺激の強い意見を取り上げなければならならず、視聴者の大半はそんなメディアにあきれている。現実世界で見かける、1つの社会問題に対する人々の姿勢がぎゅっと凝縮されている。

 

自分の立場、プライド、大切な人を守ろうとするとどうしても反対する意見を持つ人ばかりに目がいって、周りの人が敵ばかりに見えてしまう。けれども、現実はそこまで1人の人間に対して反発していないし、注目すらしていない。普段から異なる人種の人に強い反感を覚えている人なんてそういない。そんなあたりまえのことに改めて気づかせてくれる作品です。

 

この他にもファンタジーの背後の物語を描いた短編などがあります

 

『現代神話』は「猿人」「馬人」が暮らす社会の物語ですが、本作に含まれている他の短編の設定は全く異なります。僕が気に入った『進学天使』は、飛ぶのが苦手な天使が人間の男の子と同じ高校に通うべきか、迷っている物語です。

 

他には誰も住まなくなった魔王城をどう利用すべきか思案する物語であったり、世の中にあまり必要とされていない竜を守るためにどうやったら竜の需要が生まれるのか模索する物語など、ファンタジーの世界を現実に置き換えたり、ファンタジーの背後にある物語を描いている短編がまとめられています。『ダンジョン飯』が気に入った方は特に楽しめると思うので、ぜひ目を通してみてください。

 

 

『竜の学校は山の上』が気になるなら、こちらはいかがでしょう。

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