知る人ぞ知る名作『青 オールー』は疾走感がたまらない。いつの間にか差能の物語に巻き込まれる。
本のいいとこおすそわけ。今回ご紹介するのは、羽生生純さんの『青 オール−』という作品です。独特のタッチで描かれるキャラクターが自分たちの作る「物語」に引き込まれていくのと同時に、読んでいるこちらも作品にハマっていきます。あまり知られていませんが、知る人ぞ知る名作です。
絵のタッチが、暗い物語好きにはたまらない
主人公は、仕事もプライベートもうまくいっていない編集者、安対武。羽生生さんの絵のタッチはいかにも人が不健康そうな印象になる。暗い物語が好きな人にはたまりません。
なんとか人生を巻き返すために、かつて大ヒットマンガを生んだ差能構造に会いに、沖縄へ行きます。そこに待っていたのは、こんな変人。
営業に行って出会ったのが、全裸で変なポーズをとっている人だったら帰りたくなりますね。彼はかつてマンガに対して抱いていた失っていました。しかし、なんとしても差能にマンガを書かせたい安対は、差能を居酒屋へ連れて行きます。そこでヤクザに絡まれ、ひょんなきっかけで差能は銃を手にしてその場にいたヤクザを撃ってしまいます。
人を撃つことに快感を覚えた差能は、ヤクザになることを決めます。こういうときの表情がとても力強い。
もはや付いていくしかない安対。差能のぶっ飛んだ行動に振り回されつつ、最低限死んでしまわないようにコントロールしようとします。どんなストーリーでヤクザとして生きるのか。
差能が作る物語にどんどんと引き込まれていく
安対と差能はやっていることは違っても、関係は作者と編集者。差能がメインのストーリーをつくり、安対が適切な形に編集する。しかし、だんだんと差能は自分の物語に囚われ、安対のコントロールは効かなくなっていきます。羽生生さんの濃いタッチが、前に進んでいく力を助長し、差能の物語は作品のはじめでは予想できない方向にぐんぐんと進みます。
本作の魅力はこの差能が作る物語と、絵のタッチが生み出すぐんぐん前に進む疾走感です。5巻完結と短いので、あっという間に引き込まれて、あっという間に読み終わってしまうでしょう。『青 オールー』はマイナーで絵も癖がありますが、読んだことのないタイプの物語できっとハマりますよ。
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