ワトソンがほしいものが、ほしいわ。『屍者の帝国』―伊藤計劃×円城塔
ほしいものが、ほしいわ
―糸井重里
「ほしいものが、ほしいわ」という時代
これは糸井重里さんの名作コピーとして、とても有名なのでご存知の方が多いでしょう。このコピーが世に出たのは1988年。あれから30年近く経っても、状況はあまり変わっていないようにみえます。
一通り必要なものは揃っていて、自分が他に何を求めているのかがわからない。だいたいの情報はスマホで検索すればその場で出てくるし。音楽も映像も無料で鑑賞できてしまいます。これ以上何を求めるというのか。
そんな状況だからこそ、誰かが強く欲しがっているものにはとても興味が湧きます。なんでそんなに欲しがっているの、と。
『屍者の帝国』の舞台は死体を労働力にする世界
故・伊藤計劃と円城塔の小説が原作の『屍者の帝国』 が『PROJECT-ITOH』の一環として映画化されました。
本作は主人公のジョン・H・ワトソンが、魂の在り処を探す物語です。
人間は死亡すると、生前に比べて体重が21g程減少することが確認されている。それが霊素の重さ。いわゆる魂の重さだ。
彼らが生きる世界はとても興味深い。「屍者」とはPVの冒頭にあるように、亡くなった人に「擬似霊素」とプログラムを書き込むことで再び動かせるようになった存在です。ワトソンたちが生きる世界ではこの屍者が人間の代わりに働いている。屍者を労働力として使う技術が発達した世界。荷物の運搬、行動の記録、兵役といった比較的単調な仕事は人間がやらなくていい。
ワトソンがほしいものがほしいわ
ワトソンは医学を学ぶ学生として、自分の興味にしたがって、魂の在り処を探しにいきます。たとえ砂漠でも、雪山の奥地であっても。その動機は中盤まで全く語られません。だからこそ、なぜ、何を求めているのか、と観客は惹きつけられます。鑑賞中の僕はその点に惹かれて食い入るように観ていました。ワトソンがほしいものがほしい。
自分の生活範囲から出なくても、衣食住は事足りていて、たいていの情報収集も手元で完結してしまうような生活をしている僕にとっては、長い旅をしてまでも手に入れたい秘密と、何としても手に入れたいという動機がとても魅力的でした。
しかし物語の終盤に差し掛かるあたりでその興味が薄れてしまいます。劇中で説明されていない技術が登場して置いていかれてしまったのです。原作を読んでから鑑賞している人にとっては当たり前のことでも、未読の僕にとっては、急に出てきた描写に虚を突かれた感覚です。
他の方の感想を見ていても「よくわからなかったけど、〜」といった枕詞を多く目にしたので、原作未読者にとって終盤あたりまでの盛り上がりが最高潮なのかもしれません。
『虐殺器官』 の公開延期で繰り上げて11月に公開される『ハーモニー』 に期待しています。
最後に。
おそらく本作の感想はこの一言にまとめられます。
ロケットおっぱいすげぇ。
公式情報などはこちら
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