「頭寒足暖」が心地よい
年末も年末。あと1日と数時間で除夜の鐘があたりに響き渡るころ。ひたすらに寒い日が続き、体温でこたつのように暖まった布団はもはや蟻地獄である。あまり空調の類は使いたくないが、もうさすがに何も使わずに過ごすのはツラいもの。
僕の部屋には現代の若者らしく冷暖房が完備されているのだが、どうにも暖房は好きになれない。部屋全体が暖かければ、脇にあるベッドに寝転んでも、机で作業をしていても同じように快適である。しかしどうにもちょうどいい温度に保つのが難しく、いつも少し汗ばむほどの室温になってしまう。
過度に暖かくなると、身体は春の陽気に包まれているかのようにぼんやりしてしまう。集中して文章を書きたいと意気込んでいても、「まぁ一行書いたからいいか」なんてのんきなものだ。
偽装された春の陽気から逃れる手段を考えた。僕の解答は机の下に収まる小さなヒーターだ。これが大変な優れものでスイッチをつければ1秒で足元が暖まる。上半身には厚手の半纏。全くスキがない。頭部は多少寒くとも問題はないどころか、冴えない頭がほんの少し冴えたような気さえする。頭寒足暖(僕の造語だ)はいい。
マンガは短編集がおもしろい。阿部共実というマンガ家を知っているだろうか。彼(正確に性別を把握していないので、便宜的に彼と呼ばせていただく)は『ちーちゃんはちょっと足りない』で『このマンガがすごい!2015』オンナ編第1位を獲得している。しかしなんと言っても短編集の出来がとてもよい。
『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』はいかにも危なそうな雰囲気が漂っている。ねこを飼っていない男性の家に猫好きの女性が訪れてイチャつく物語や、何を問うても「え」としか返答しない女子高生の笑える話。春の陽気が漂っているのかと思いきや、友だちのいない高校生を絶望に陥れるひどい吹雪のような話なんかもある。この1冊に四季が詰まっているかのごとく、全く違う景色を見せてくれる。
僕にとってはこの「頭寒足暖」のような変化値、というか落差が大きいものに惹かれるのかもしれない。
今年は豊作であった映画でいうと、『怒り』が特に好きだ。映画館に足を運んだ方なら誰しも、あの沖縄の学生に自分の姿を投影して「なぜあの子を守ってやれなかったんだ」と強い後悔に苛まれたことだろう。直前には高校生らしく心が近づく様子が描かれ落差があったからこそ、印象に残るような作品になる。