物語上の出来事ではなく、テーマとしての「死」ー『女の子が死ぬ話』柳本光晴
本のいいとこおすそわけ。今回ご紹介するのは、柳本光晴さんの『女の子が死ぬ話』というマンガです。これだけ直接的に登場人物の死を事前に明言している作品はそうそうありませんね。タイトルにある「女の子の死」を単なる物語上の出来事として扱うのではなく、テーマとして一貫して扱っている良作です。あらすじと感想をどうぞ。ネタバレはありません。
あらすじ
高校に入って、初めて出来た友達は、出会って数ヶ月で死にました。少女漫画のような青春に憧れる少女・千穂は高校入学初日に同じクラスの和哉・遥と知り合い、意気投合する。和哉への淡い恋心を抱きながら充実した高校生活を過ごす千穂。しかし、彼女は知らなかった。親友の遥が不治の病に冒されており、あと数ヶ月しか生きられないことを…。*1
ウェブメディアでは「タイトルとサムネイルがすべて」と言うけれど
ウェブメディアを語るときに、「タイトルとサムネイルがすべてだ」というような話があります。雑多にある情報の中で、読者がはじめに目にするのはタイトルとサムネイルだから、引きのある言葉を使ったり、内容がきちんとわかるようにして、まずはクリックしてもらえるように意識しなければならない、なんてことを見かけたことがある人は多いはず。
こういった心がけについて書いてあるブログの記事は山ほど見つかります。けれども、出版されているマンガのタイトルを見ると、そのほとんどが内容のわからないものばかりです。たとえば、先日発表された『マンガ大賞2015』のランキングを見てみましょう。
1位『かくかくしかじか』東村アキコ
2位『子供はわかってあげない』田島列島
3位『聲の形』大今良時
4位『僕だけがいない街』三部けい
5位『BLUE GIANT』石塚真一
6位『ボールルームへようこそ』竹内友
7位『イノサン』坂本眞一
8位『僕のヒーローアカデミア』堀越耕平
9位『王様達のヴァイキング』さだやす・ストーリー協力 深見真
10位『累』松浦だるま
11位『月刊少女野崎くん』椿いづみ
12位『魔法使いの嫁』ヤマザキコレ
13位『宝石の国』市川春子
14位『ドミトリーともきんす』高野文子
「子供」、「聲」、「ヒーロー」、「魔法使い」といったキーワードでなんとなく世界観の一部を知ることができるだけで、ブログ記事のタイトルのように内容がわかるようなものは見当たりません。考えてみれば当たり前ですが、出版するような作品においてタイトルで内容を伝えることなんてそうそうするべきではありません。なぜなら、人はネタバレを嫌うから。『CLANNAD』とか『シュタインズ・ゲート』とか、「これは泣ける」という評判を聞いてからゲームを人はたくさんいます。けれど、その泣けるポイントはわからないし、どんな風にカタルシスが訪れるかどうかはわかりません。だから「これは泣ける」という評判を事前に聞いていても泣ける。
「女の子が死ぬ」というのは物語上の出来事ではなく、テーマ
ここで、紹介しようとしているマンガのタイトルを改めて見ましょう。『女の子が死ぬ話』。ほう。こんな風に読む前から登場人物の死が明らかになっている作品ってありますか。しかもおそらく表紙の白い髪の女の子ですよね、死んでしまうの。
登場人物の死は、予兆はあったとしてもだいたい予想外に発生して、カタルシスを呼び起こすための装置として使われます。では予め死を明言してしまっている本作は駄作なのかというと、決して駄作なんかではありません。
あらかじめ死ぬことをタイトルで予告してしまっていることからわかるように、本書においては「突然の死による別れ」という物語上の出来事によって涙を誘うことを目的としていません。あくまでこの作品はある女の子が死んでしまう話であって、普通に生活をしていた女の子が突然死んでしまって泣ける話ではないのです。この物語はこんなシーンで始まります。
表紙の少女はすでに余命が長くありません。余命を宣告され、死を覚悟した少女はどんな行動をするのでしょうか。登場人物の死は、その死を眺める人の視点から描かれるものですが、本書においては死が近づく女の子自身の目線からの描写がとても多い。
だから「女の子が死ぬ話」というタイトルでも作品の価値を失うことはありません。女の子が死んでしまうのは、物語上の出来事ではなく、あくまで本書におけるテーマなのですから。
試し読み
作者、柳本光晴さんのブログ
『女の子が死ぬ話』が気になるなら、こちらはいかがでしょう。