『アイム ホーム』石坂啓 −「ただいま」と言える場所はどこにある?
本のいいとこおすそわけ。
今回ご紹介するのは、石坂啓さんの『アイム ホーム』というマンガです。2015年4月から放映されている、木村拓哉さん、上戸彩さんが出演するドラマの原作でもあります。なお、本作は第3回「文化庁メディア芸術祭」(1999年)のマンガ部門で大賞を受賞しています。ネタバレを避けてご紹介いたします。
内容紹介、あらすじ
事故で過去5年間の記憶を失った家路久。自分のポケットにあった10数個のカギをもとに本当の自分と、帰るべき場所をさがす長い旅が始まった……。離婚した元家族や、友人の家を訪ね歩き、過去の自分のことを聞く家路。果たして記憶は戻るのか!? そして、少しも自分の家族と思えないヨシコたちとうまくやっていけるのか!?(Amazon.co.jp:アイ’ムホーム (上))
驚けるのはいい作品の証
マンガ、アニメ、小説など、物語に触れていてよかったなと思うのは、驚くようなものに出会えたとき。驚く対象は物語の展開かもしれないし、キャラの魅力かもしれません。驚けるというのは、自分の想像を越えた何かに出会ったときで、マンガを読んでいても驚いた作品はいい作品だと思っています。
アイムホームは電車の中で読みながら、何度も「えー!」と目を見開いて叫びそうになってしまいました。僕の中で、結構なヒットです。
この作品は1997年に連載が始まったので、比較的古い作品です。僕はたまたま本屋で見かけて面白そうだと思って買ったのですが、どうやら最近木村拓哉さんが主演でドラマ化したようですね。
仮面をつけた家族の描写が怖すぎる
本作の主人公は、事故で過去5年間の記憶を失ってしまった家路久。自分の家族のことを親しみを持って家族と思えず、居場所を求めていろいろなところへ足を運びます。主人公の目を通して家族を見ると、みんな仮面をつけているように見えるようなのです。
まず、この仮面の描写が怖い。マンガは身体の動きが見えない上に声もついていないので、マンガのキャラクターにおける身体性は表情に依るところが大きい。けれど、本作の主人公の家族は仮面をつけてしまっているため、肝心な表情が見えない。もはや人間ではなく、あたかも人形と暮らしているような気になってくる。
本来は一番細かく感情を読み取れるはずの家族が、何を考えているのか全くわからないというのはとてもおそろしいことです。言葉は聞こえても、そこに宿っている感情が読み取れない。家族は心休まる場所であるはずなのに、全く気を許すことができません。
一方、家族以外の人はきちんと顔が見えるので、人間らしく接することができます。自分の家の他に、「ただいまー。」と言える場所へとふらふらと惹かれ、抜けてしまった記憶を探す主人公。じわじわと、家族以外の人たちへの好意が強くなっていきます。
主人公の居場所はいったいどこにあるのでしょうか。結末を含め、とても驚きのある作品です。
ドラマHP
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