『女子高生に殺されたい』は読むと女子高生に殺されたくなる問題作
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あー、こんな女子高生に殺されたい。ただ単に殺されるんじゃなくて、できれば絞殺。しかも完全犯罪で殺してほしい。自分のせいで罪に問われるなんてかわいそうだから...
このタイトル、思わずクリックしてしまう力があるでしょ。残念、釣りです。いや、正確に言うとタイトルとしては適切ですが自分の欲望を表しているわけではありません。確かに女子高生は魅力的だとは思うけど、殺されたいなんて全く思ったことありません。実はこれ、マンガのタイトルなんです。2015年2月単行本が発売されて、まだ1巻しか出ていませんが完結して名作になる予感がします。
もはやタイトル買いした『女子高生に殺されたい』
今回は思わず表紙買い、いや、もはやタイトル買いしてしまった古屋兎丸さんの作品の感想を書きたいと思います。
あらすじ
女子高生に殺されたいがために高校教師になった男・東山春人。彼の標的は1年3組の美少女・佐々木真帆(16歳)。彼女による“理想的な殺され方"の実現のため、密かに綿密に計画を練るのだった…!
主人公は女子高生に殺されたい高校教師
あらすじを読むとわかりますが、タイトル通り「女子高生に殺されたい」という願望を持つ教師の物語です。この設定からしてけしからんわけですが、いわゆるラブコメ的にすぐに願望が叶えられる展開ではありません。冒頭はただ主人公が妄想しているだけだし、アスペの女子高生がとりあえず「ぽよ」と語尾につけてるだけ。
「女子高生に殺されたい」というような性的嗜好は極めて個人的なもので、違う嗜好を持つ人との間には全く理解できない断絶がある。そもそも他人がどんなものに対して性的興奮を覚えるのかなんて知る機会がありません。調べてみると、世の中にはこんな嗜好があるようです。
性的嗜好の種類
・アクロトモフィリア(身体欠損性愛)
四肢を欠損(破壊)しようとする行為への性的嗜好。
・サイダロドロモフィリア(列車性愛)
電車などの機械や鉄道製品への性的嗜好。
などなど...
他人の性的嗜好を「わかる」ことはできない
上記のものは極端な例かもしれませんが、名前があるということは性的嗜好としてある程度地位が確立されている証拠。誰か1人しか持っていない嗜好に対して名前はつかないですね。おそらく「お前変わってるなー」ぐらいの話で終わってしまいます。
本書の「女子高生に殺されたい」という願望も「オートアサシノフィリア(恐怖性愛)」という名前があります。こうした他人の嗜好は普段は全く知ることができません。 もしかしたら電車で隣に座っている人も「女子高生に殺されたい」と思っているかもしれません。おー、怖い。いや怖くはないか。
「サイダロドロモフィリア」という電車に対する性的嗜好を持つ人がいるなら、こんな人もいるかもしれません。
・ピーナッツを鼻に詰めると興奮する人
息苦しいのが好きなMっ気のある人ですかね。
・味噌汁に浮いているわかめに興奮するという人
んー、なんだろう。わかめがゆらゆらと浮いているのがいわゆる「わかめ酒」的な感じを連想させるのでしょうかね。
・ホテルのボウル状の浴槽にローションを塗りたくって、そこに女性を入れ、手で押してツルツルと滑らせているという状況に興奮する人
宮川大輔さんが…。※『大輔宮川のすべらない話2』 参照。
仮にこんな性的嗜好を持っていたとしても、電車で隣に座ってる人がどんな嗜好を持っているかなんてわからない。言葉として伝えられても、他人の性癖を「わかる」ことはできません。ナッツを鼻に詰めると興奮する人は、味噌汁に浮いているわかめに興奮するという人の感覚を味わうことはできないでしょうし、逆もまたしかり。興奮しない人は興奮できないでしょ。正直言って、僕は女子高生に殺されたいなんて欲望はこれっぽっちもわかりません。
人は他人の人生を求める
本来はその存在を知ることすらできないような、他人の一面を覗くことができるのは小説やマンガといった物語のいいところ。極端に言ってしまえば、人が物語を求めるのは、他人の人生を生きられるからです。本作『女子高生に殺されたい』では、上記のような他人が知りようのない性癖を持つ人の感覚を、「自分のもの」として味わうことができます。
この作品が特徴的なのは、テーマに加えてコマの使い方。
作品の冒頭からこんな風に独白が続くので、女子高生に殺されたいという願望を持つ主人公と一気に同化して、いつの間にか自分も女子高生に殺されたいという願望を持っているのではないかと錯覚してしまいます。現実の自分とは全く違う人生を生きるのは楽しいですね。
まだ1巻しか出ていませんが、とても先が気になる問題作です。新しい作品なので読んでいる人はまだ少ないですが、後に話題になる作品でしょう。おすすめです。
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知る人ぞ知る名作『青 オールー』は疾走感がたまらない。いつの間にか差能の物語に巻き込まれる。
本のいいとこおすそわけ。今回ご紹介するのは、羽生生純さんの『青 オール−』という作品です。独特のタッチで描かれるキャラクターが自分たちの作る「物語」に引き込まれていくのと同時に、読んでいるこちらも作品にハマっていきます。あまり知られていませんが、知る人ぞ知る名作です。
絵のタッチが、暗い物語好きにはたまらない
主人公は、仕事もプライベートもうまくいっていない編集者、安対武。羽生生さんの絵のタッチはいかにも人が不健康そうな印象になる。暗い物語が好きな人にはたまりません。
なんとか人生を巻き返すために、かつて大ヒットマンガを生んだ差能構造に会いに、沖縄へ行きます。そこに待っていたのは、こんな変人。
営業に行って出会ったのが、全裸で変なポーズをとっている人だったら帰りたくなりますね。彼はかつてマンガに対して抱いていた失っていました。しかし、なんとしても差能にマンガを書かせたい安対は、差能を居酒屋へ連れて行きます。そこでヤクザに絡まれ、ひょんなきっかけで差能は銃を手にしてその場にいたヤクザを撃ってしまいます。
人を撃つことに快感を覚えた差能は、ヤクザになることを決めます。こういうときの表情がとても力強い。
もはや付いていくしかない安対。差能のぶっ飛んだ行動に振り回されつつ、最低限死んでしまわないようにコントロールしようとします。どんなストーリーでヤクザとして生きるのか。
差能が作る物語にどんどんと引き込まれていく
安対と差能はやっていることは違っても、関係は作者と編集者。差能がメインのストーリーをつくり、安対が適切な形に編集する。しかし、だんだんと差能は自分の物語に囚われ、安対のコントロールは効かなくなっていきます。羽生生さんの濃いタッチが、前に進んでいく力を助長し、差能の物語は作品のはじめでは予想できない方向にぐんぐんと進みます。
本作の魅力はこの差能が作る物語と、絵のタッチが生み出すぐんぐん前に進む疾走感です。5巻完結と短いので、あっという間に引き込まれて、あっという間に読み終わってしまうでしょう。『青 オールー』はマイナーで絵も癖がありますが、読んだことのないタイプの物語できっとハマりますよ。
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これは…なんと言えばいいのか。表題作を読むと、 おそらく笑う人と怒る人がいるはず。ちなみに僕は驚くと共に笑った。猟奇ミステリーを読んで笑うとはどういうことか、オチを調べずに読んでみてほしい。
○ラスト3ページでゾクッとするサスペンスホラーマンガ―『ミュージアム』巴亮介
今回ご紹介するのは、巴亮介さんの『ミュージアム』というサスペンス・ホラーマンガです。3巻で完結する比較的短いマンガですが、かなり出来がよかったです。
『ミュージアム』巴亮介 (ネタバレ&解釈)
最近、やけに検索流入が多いなと思っていたら、「ミュージアム マンガ ネタバレ」で検索して僕の記事にたどり着いている方が多いようです。自分でも調べてみると、なんと検索結果1位。ネタバレないのに...。
基本方針としてネタバレ無しでおもしろさを伝えようとしているので、せっかく見てくださった方のご期待には添えない結果になってしまいっていました。たくさん求められるとやはり少しはニーズに応えたくなるのが世の常。ということで実験的にネタバレをしようと思います。ネタバレだけ見てもなにも楽しくないと思いますよ。笑 ただ、この作品に関してはネタバレした上で解釈について話すのは楽しいかもしれません。
と、その前に。
もしこのマンガを読むことを考えている方は、絶対にネタバレを見ずに作品を読んだ方がいいです。
ネタバレ無しの記事はこちら。
ラスト3ページでゾクッとするサスペンスホラーマンガ―『ミュージアム』巴亮介 - いろどりぷらす
ここからネタバレ
この作品におけるネタバレ的要素は3つ
・蛙男は誰なのか
・結末はどうなっているのか
・作者からの隠されたメッセージ
これらを順番に載せていきます。
蛙男は誰なのか
実はこれはそれほど重要なことではありません。蛙男は重度の光線過敏症という病気を患った霧島早苗という男性。持病のせいで日光の下で活動ができず、犯行はいつも曇りや雨の日に行われていました。
結末はどうなっているのか
主人公の妻と息子が蛙男に誘拐されて、一時は危機に追いやられます。しかし、仲間の助けにより、3人とも無事に帰ることができました。ただ、だからといってハッピーエンドとはいえないのがこの作品のいいところ。
事件が終結する前に蛙男はこう言っている。
「エンディングは3つあった」
ひとつは君が奥さんを殺して息子と2人生き残るエンディング
もうひとつは 僕の隙を狙ってその足元にある拳銃を瞬時に拾いあげ 撃ち殺す 家族3人が助かるエンディング
そして 最後のひとつは...
この最後のひとつの選択肢がなんなのかを告げる前に、仲間の助けがきて、結局犯人の口から語られることはありません。事件収束後にもこの余韻が主人公を悩ませます。あの時、蛙男は何を言おうとしていたのか...と。
そして最後の3ページに至ります。ネタバレなしの記事に書いたのですが、このラストがとても印象的でした。本作は息子の誕生日を祝っているシーンで終わります。ネット上ではハッピーエンドという意見もありますが、僕は決してハッピーエンドではないと思います。なぜかというと、主人公の表情。息子の誕生日であれば多少なりとも嬉しい顔をするはず。それなのに無表情でぼーっとどこをみているのかわからないような目でケーキの火を見つめます。PTSDのような状態です。
おそらく蛙男の意図したエンディングではありませんが、「僕は人を楽しませる芸術家だ」という言葉を残していたことからすると、人の心に何かを残すという意味では望んでいたことが達成できたのかもしれません。
このエンディングに関しては解釈の余地があります。そして、このエンディングに関連するのが次のネタバレ。
作者からの隠されたメッセージ
実はこの作品には作者からのメッセージが隠されています。3巻をきちんと読んでいると少し不思議に思う部分があるはずです。これは自分で探した方が楽しいので、ぜひ読んでください。エンディングに関する記述なんかがあるかもしれません。ヒントは新しい登場人物。
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私はあなたになりたいの ー『累』松浦だるま
本のいいとこおすそわけ。
こんにちは、いろぷらです。
今回ご紹介するのは、松浦だるまさんのデビュー作『累(かさね)』です。人の美醜を描いた、続きがとても気になる作品です。現在(2015-01-09)、イブニングで連載中。4巻まで発売されています。以下、あらすじと感想です。
あらすじ
およそこの世のものとは思えぬ醜悪な容姿を持つ少女、累(かさね)。彼女はその容姿ゆえ、周りの者から凄惨なイジメを受けていた。そんな彼女に、伝説の女優として名をはせた、亡き母が遺した一本の口紅。この口紅が累の運命を大きく変えていく…。(参照:http://evening.moae.jp/lineup/266)
私はあなたになりたいの
累の母が遺した口紅は他人と顔を入れかえることができる不思議な力を持っていた。口紅をつけた状態で、誰かとくちづけすると、さっと自分の顔と相手の顔を交換できるのだ。
自分の生まれ持った醜さゆえに他人から受けていた卑劣な行為の数々。こんな顔だと何をしてもムダなんだ…。強烈な劣等感から生まれる美しさへの執着心が累を変える。
はじめはなぜ口紅が自分に遺されたのかわからなかった。しかし、使い方を学んでからは他人の美しい顔を借りて、他人として生きようとする。「美しいというのは、こんなに素晴らしいことなんだ!」どんどん元の累は消え、他人として生きることに魅了されていく。
醜いでしょう
たとえあなたが眠る間だけだとしても
私もあなたになりたいの
たいていこうした主人公は「醜い」という扱いを受けていても、かわいく描かれているものだ。しかし、累の獣のように釣り上がった目、裂けた口は「化け物」と言われていてもおかしくない。過去の環境のせいで性格が卑屈になっているのもリアリティがある。
散りばめられた数々の謎
自分とはちがって、母は美しかった。伝説の女優として名をはせたまま、この世を去った。累が使っている口紅はその母親から託されたものだ。ということは、母の顔も他人の顔なのかもしれない。
なぜ母はこの口紅を持っていたのか。なぜ母は口紅を使うように勧めたのか。突然現れた協力者は何が目的なのか。物語に散りばめられたこうした謎が世界観に深みを与えている。
最後に『累』と似ている作品として挙げられていた『ガラスの仮面』からの引用を。
そうだよマヤ
わたし達はガラスのようにもろくてこわれやすい仮面をかぶって演技しているんだどんなにみごとにその役になりきってすばらしい演技をしているつもりでも
どうにかすればすぐにこわれて素顔がのぞく
なんてあぶなっかしいんだろう…
このガラスの仮面をかぶりつづけられるかどうかで役者の才能がきまる…
そんな気がする…—青木麗(『ガラスの仮面』5巻 p.270より)
(このカバーを取ると…)
試し読みできます。
累 —かさね— / 松浦だるま - イブニング公式サイト - モアイ
『累』作者の松浦だるまさんのtwitterアカウント
宣伝です。小説「誘-いざな‐」発売中です。漫画「累-かさね‐」の主人公の母親の過去の物語です。表紙も挿絵も本文も私が書いている、とても我儘な本となっております。よろしくお願い致します。 pic.twitter.com/q6DPZvy6H7
— 松浦 だるま (@darumaym) 2014, 12月 23
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新年あけましておめでとうございます! 本年も累をよろしくお願い致します! そして、だるま先生からメッセージイラストをいただきました! pic.twitter.com/vQmtEOe01F
— 累-かさね- (@kasane_fuchi) 2015, 1月 5
そして僕のtwitterアカウント
ある人が本気で何かを目指そうとしている姿は、人を動かす力を持っている。
— いろぷら→センスを磨く方法について書く/デザイン/マンガ/仮想通貨 (@irodoriplus1) 2015年1月8日
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禿げたオッサンのツンデレ話―『春風のスネグラチカ』沙村広明【メディア芸術祭】 - いろどりぷらす
いつも読んでくださって、ありがとうございます。
とてもはげみになっています。
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ラスト3ページでゾクッとするサスペンスホラーマンガ―『ミュージアム』巴亮介
小栗旬さん主演の映画『ミュージアム』が公開中。この記事では原作のマンガを紹介しています。
今回ご紹介するのは、巴亮介さんの『ミュージアム』というサスペンス・ホラーマンガです。3巻で完結する比較的短いマンガですが、かなり出来がよかったです。
あらすじ
公式の動画があるので、こちらをご覧ください。(読もうか迷っている方は、2つ目のものは見ないほうがいいです。ネタバレ的に。)
おすすめはしませんが、ネタバレはこちら
感想
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3巻で完結の比較的短い話なので行き当たりばったり感がありません。すごくかっちり構成ができている印象です。なので、するするっと最後まで読めてしまいます。
本作を読んで思ったのは、マンガは大きく分けて2種類あるということ。それは部分に魅力があるものと、全体として魅力があるものです。『スラムダンク』や『ワンピース』のように、個性的なキャラクターが名言を言うようなマンガはどちらかというと部分に魅力があります。アツい試合のシーンや、戦闘シーンは何度も読み返したくなりますね。
『ミュージアム』はというと、もちろん1つ1つのシーンにも力を感じますが、どちらかというと全体として魅力があります。内容の密度が一定と言えばいいのでしょうか。登場人物はいかにも自分の周りにいそうな人たちなので、めちゃくちゃアツかったり、名言製造機のような人はいません。ですが、ストーリー構成のうまさや、シメ方などは絵の印象も相まって、出来のいい映画のよう。
批判している人もいるようですが、僕は最後3ページが映像としてものすごく力があるように思いました。あの表情…作者のセンスの良さを感じます。
作品中に出てくる殺人鬼、雨ガッパを着た蛙男は自分のことをアーティストと読んでいます。死体は自分の作品と言うだけあって、ただ感情に身を任せて人を殺すのではなくどういう方法をとるのがいいのか考えていることが読み取れる。このあたりはアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』公式サイトや映画『SAW』なんかと似た雰囲気があります。なので、両作品が好きな人は入り込めるはず。
いやだ、いやだ、と思っていても最悪の事態はたいていおきるもの。
僕は表現者だよ。
人を楽しませるアーティストだ。
果たして、蛙男はなにをつくろうとしているのか。
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おまけとしてついている短編の出来もいいので気になった方はぜひ読んでみてください。※最終巻には作者からのメッセージが…
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「ミュージアム」が気になるのであれば、こちらはいかがでしょう。
人間と馬人の雇用格差など、相変わらずプロットがおもしろいー『竜の学校は山の上』九井諒子 - いろどりぷらす
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「このマンガがすごい!2015」ランキング上位10作品まとめました【オンナ編】 - いろどりぷらす
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禿げたオッサンのツンデレ話―『春風のスネグラチカ』沙村広明【メディア芸術祭】
こんにちは。
本のいいとこおすそわけのコーナーです!
『春風のスネグラチカ』は2014年度の第18回文化庁メディア芸術祭、マンガ部門の優秀賞を受賞した作品。作者は沙村広明さん。マンガ・エロティクス・エフで2013年〜2014年に連載されていました。
あらすじ
舞台は1933年、極寒のロシアを舞台に「ロシア革命」によって帝政ロシアから共産主義ソビエトへと変化する激動の時代。とある別荘(ダーチャ)の管理人であるイリヤ・エヴゲーニヴィチ・ブイコフは、車椅子の少女・ビエールカと物言わぬ従者・シシェノークに出会い、「私が勝ったら、あの別荘に一週間泊めて下さい」と奇妙な賭けを申し込まれる。ブイコフは賭けに勝ったものの亡命することになり、結果ビエールカとシシェノークが別荘に住みつく。しかしながらすぐに秘密警察(OGPU)に捕らえられ、過酷な運命に巻き込まれていく。なぜ、そしてどこから彼らはこの地にやってきたのか。互いだけを頼りに生きる二人が背負う密かな宿命とは―。(メディア芸術祭HP参考)
さあ、登場人物の名前は覚えられましたか?僕はロシア系の名前はからっきしだめ。カラマーゾフの兄弟を読むときにどれだけ苦労したか…
(上がビエールカ、下がシシェノーク)
全ては「ツン95%のツンデレっ娘物語を描きましょう!」と編集長と盛り上がっていたところから始まりました。(あとがきより)
と書いてあるものの、そんなに明るい学園もののはずはなく、金髪ツンデレ娘を求めて読むと後悔する。
沙村広明さんというと『ブラッドハーレーの馬車』の印象が強い。
詳細は省くが、『ブラッドハーレーの馬車』は救いのない陰惨な物語だ。 だから本作も乾いた絵のタッチで暗い暗い物語になるのだと思っていた。しかし、その予想は裏切られた。
主人公のビエールカとシシェノークは突然現れる。主人公と書いてあるのに、2人の関係は明かされない。妹と兄のようにも見えるし、姉と弟のようにも見える。ところどころに散りばめられている謎は少しずつ解き明かされ、描かれている世界を理解していく過程で引き込まれていく。思い描いていたより穏やかな物語だった。
読んでいて魅力的に感じるのは沙村さんの絵だ。細い線のタッチはロシアなどの寒い地域との相性が抜群だと思う。ほとんどデレなくてもビエールカはとてもきれいだ。
残念ながら、僕は『ブラッドハーレーの馬車』の方向だろうと勝手に考えていたこともあって、肩透かし感があった。ただ、巻末の登場人物紹介とあとがきを読んだら読み返したくなります。というか読み返してください。違った楽しみ方ができるはずです。
最後に、白人ツンデレ娘を期待している方へ
描き上げてみれば企画当初のツン95%は雲散霧消していて、むしろ禿げたオッサンのツンデレ話になってしまったのは作者の不徳の致すところです。
2014-12-11
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